Cogito Ergo Sum.

我思う故に我あり

「魔女の森」

 上岡龍太郎さんが亡くなったそうだ。

 僕はテレビのお笑い番組等はあまり見ないのだが、この人のことはちょっと好きだったような気がする。

 上岡さんと言えば、「魔女の森」だ。

 サロマのコースの64km地点くらいのところから数km続く防風林(?)を「魔女の森」と名付けたのは、(マラソンを趣味とするタレントのハシリであった)上岡さんなんだそうだ。

 なんでも、ランニング雑誌『ランナーズ』の連載記事の中で、この林のことを「魔女の森」と呼んだのだとか。この森に棲む魔女が、まるでセイレーンのように、上岡さんの耳元で囁くのだそうだ。「ここでリタイアしてもいいのよ。もう充分走ったじゃない。」

 ところが…、僕自身はこの「魔女の森」で、リタイアの誘惑に駆られたことはない。それどころか、僕にとってここは元気が出る区間。サロマのコースの中で「好きな区間」を挙げろと言われれば、真っ先にここを挙げる。

 僕にとって一番ツラいのは、この「魔女の森」の数km手前、62km地点くらいのところだと思う。何故か毎年ここが一番ツラい。異様にツラいのだ。

 その後、キムアネップ岬キャンプ場のトイレに寄って、63.5km地点のエイドで給水。小さな橋を渡っていよいよ「魔女の森」に入る。そしてここで「復活」を遂げる。

 直射日光が照りつける暑い日は、林が太陽光を遮ってくれるのでここだけ涼しいし、逆に雨が降って気温の低い日は、林の中は雨の勢いが弱まっており、暖かい空気が地表を漂っている。暑くても寒くても、ここでペースを取り戻すのだ。

 「魔女の森」を抜ければ、ワッカまでの道程が具体性を帯びてくる。100km完走がグッと近づく。たとえ名付け親が亡くなっても、この林は「魔女の森」と呼ばれ続けるのだろう。

 今年、4年振りに「魔女の森」を抜ける時、僕に上岡さんの顔が思い浮ぶだけの余裕があるだろうか。

 合掌。