Cogito Ergo Sum.

我思う故に我あり

ショートトラック

 1996年3月大学院の修士課程を終え進学も就職もしなかった25歳の僕には暇があった。大学生協から還付してもらった出資金2万円の使い道を考えていた。実家近くの郊外型大型スポーツ店でK2のインラインローラースケート(定価27000円くらい)が3割引きで売られていた。これを買って春夏秋と随分滑った。全くの初心者で最初立っているだけでやっとだったが、練習しているうちに見る見る上達していった。自分の成長を自分で感じる経験をほとんどしたことがなかったのでこれは楽しかった。タイヤやベアリングを交換したり多少お金もかけた。本当はハーフパイプをやりたかったのだけど・・・、未だに1度もチャレンジしたことがない。札幌に一般開放されている常設ハーフパイプがなかったのだ(これはまぁ自分に都合の良い言い訳かもしれない)。

 ローラースケートを履いて初めて気づくことがある。意外と道路は傾いていること。一冬でアスファルトはボロボロになること。舗装された地面でないと滑ることができないこと。そういったことに全く気づかずに過してきたこと。

 後ろ向きに滑ったりジャンプやスピンもしてみたかったのだけど、そこまでは上達しなかった。ある程度上手になって転ばなくなると、後ろ向きに滑る練習を一から始めるなんてかなり面倒くさいのだ。高速コーナーリングで感じる遠心力をひたすら楽しんでいた。

 トリノオリンピックあんまり見てなかったんだけど、ショートトラックを見てしまった。冬のオリンピックでやってる競技の中で最もやってみたいのがショートトラックだ(スノーボードよりもやってみたい)。インラインローラースケートとアイススケートは実際のところ随分勝手が違って、全然滑れないのだが(1996年〜1997年の冬、暇があった26歳の僕はアイススケートにもチャレンジした。スノーボードを始めたのもこの冬)。

 ショートトラックというのは、もともとはスピードスケートのコーナーリングの練習だったもの。いつの間にか(?)競技となったらしい。短いストレートでダッシュして一気にRのきついコーナーに飛び込んでいく。コーナーワークが美しい。

 僕はあまり駆け引きのあるスピード競技(例えば、競輪)は好きではないのだが、逆にそれがショートトラックという競技の魅力なのだろう。あのスピードで密集して滑るわけだから、当然、接触・転倒はつきもので、失格も多く運の要素が大きそうだ。

 少し見ていたら力のある選手の勝ちパターンがわかってきた。距離のある種目では、前半は敢えて前に出ず接触・転倒といったアクシデントに巻き込まれないようにしながら体力を温存する。最後の数周で勝負をかけるとなると、まず、コーナー出口でアウトに膨らんで縦列から抜け出しストレートで猛ダッシュ、そのままアウトから先頭でコーナーに突っ込むのだ。アウトから入っているから選手の中では一番スピードが出ているわけで、次のストレートで後続の選手を置き去りにするのである。

 アウトから一気にコーナーに突っ込むスピード感がたまらない。見ていると選手が感じているだろう遠心力を自分も感じるようである。僕はもともと遠心力を感じるのが好きで、自転車・バイク・インラインローラースケート、スノーボードとどれもコーナーリングが一番好きなのだ。

 選手の動きをスローモーションで見ると、コーナーではアウト側の足一本で滑っている(サーキットは左回りだから右脚)。これが意外だった。ローラースケートの経験ではイン側の足(左脚)に体重をかけてまわったように思うので。あまりにスピードが出ているからイン側の脚では体重を支えきれないのかもしれない。あるいはコーナー出口でのスケーティングのためにはこうしておいた方が有利なのかもしれない。

 押入れの奥にK2のインラインローラースケートが眠っているはずだ。また滑ってみようかな。