昔、ちょっとだけ付き合った女のコがスーパーで言った。
「う〜ん、良いベーコンがない。」
その言葉は僕の好奇心を刺激するのに充分だった。
「え? 『良いベーコン』って何?」
しかし彼女は答えてくれなかった。僕が理屈屋なことを知っていたからだ。彼女は仕事帰りで、たぶん疲れていた。しばらく食い下がってみたが、僕の屁理屈に付き合うつもりはないようだった。
おかげで、それから数年経った今でも、ベーコン売り場に差し掛かるたびに彼女のことを想い出す。「彼女のお眼鏡にかなうのは、いったいどんなベーコンなのだろう?」と。