Cogito Ergo Sum.

我思う故に我あり

産業・組織心理学会で感じた素朴な疑問

 産業・組織心理学会の研究発表会を聞きに行った時に感じた素朴な疑問。

 最初に気づいたのは、どうやら労働者の「職務満足度」というのが非常に重要な概念らしいということ。それから「成果主義的人事評価制度」を取り入れることが、労働者のパフォーマンスを向上させるのか、彼らの「職務満足度」は上がるのか下がるのか、といったテーマが重要らしい、ということ。これは僕が見に行ったセッションが(ほとんどの研究発表会では、同時刻にいくつもの発表が並行で行われる)、こういうテーマを扱った研究を集めたセッションだっただけかもしれないが。

 素朴な疑問というのは、ある制度を採用したことによって労働者のパフォーマンスがあがったかどうかを調べたいなら、様々な変数を統制した上で、そういう制度を採用した企業と採用しなかった企業の労働者の実際のパフォーマンスを比較するのが手っ取り早いと思うのだが(あるいは、採用した企業の労働者のパフォーマンスを制度の採用前後で比較する)、どうもそういう調べ方をしないらしい、ということに関してだ(もちろん「手っ取り早い」というのはアイデアが単純だという意味であって、本当に手っ取り早いと思っているわけではない。アイデアは単純でも、実際に研究を行うのは技術的に大変な困難が付きまとうものである)。僕が聞いた研究発表では、そういう制度を取り入れた特定企業に勤める労働者にアンケート調査を行って、「その制度の採用が自分のパフォーマンス向上に効果があったと思うかどうか」を調べていた。実際に効果があったかどうかと、効果があったと人々が思っているかどうかとは、質的にかなり異なる変数ではないかと疑問に思ったわけだ。ついでに職務満足度についても質問しているので、効果があると思っているかどうかと職務満足度との関連についてや、そのような関連が仕事の種類によって異なるかどうか、というようなことも研究されていた。

 本当に知りたいのはどっちなんだろう?と思う。知りたいのは、労働者の心理なんだろうか、それとも、制度の効果(労働者の心理への効果ではなく、実際のパフォーマンスへの効果)なんだろうか。

 変な例えだが、トウガラシ摂取と体温上昇の関係を調べたいとする。このときに人々に「トウガラシを食べると体温が上がると思いますか?」と質問するのは妙である。知りたいのは、実際に体温が上がるのかどうかであって、上がると人々が思っているかどうかではないのだから。あるいは、実際に社会的格差が拡大しているのだろうかという疑問と、人々は社会的格差が拡大していると感じているのだろうかという疑問との対比でもいい。

 個々の労働者のパフォーマンスを数量化するのは難しい。仕方ないので、かわりに本人による制度への評価を用いているだけなのだろうか。それとも、そもそも制度への評価そのものを調べたいのだろうか。ここがどうもよくわからない。