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『200km走って編み出した理論 岩本能史コーチの100kmマラソンは誰でも快走できる』(岩本能史)★★★★★

 『200km走って編み出した理論 岩本能史コーチの100kmマラソンは誰でも快走できる』
 岩本 能史(著)
 2012年
 アールビーズ
 ★★★★★

 フルマラソン完走経験あり、ウルトラマラソン(100kmマラソン)挑戦経験なし、といった市民ランナーを対象とした、ウルトラ(100km)マラソン入門。考えてみると、本書のタイトルは「100kmマラソンは誰でも『完走』できる」ではない(笑)。確かに「完走」ではなく「快走」なら、誰でもできるかも(笑)。

 全5章構成。「トレーニング」「疲労に負けない知恵」「補給術」「シューズ、アイテム」「著者自身の体験談」といった内容。A5判で165ページ程度。図表は少なめ。上下の余白が広めで(どことなく)素人っぽいレイアウト。文章は口語体で、スイスイ読み進んでいける。

 実際に走ってみるとわかるのだが、ウルトラマラソンでは単に「走力」というより「トラブル対処能力」を問われるところがある。トラブルに対処できないと、走力があっても完走できないのだ。そう言う意味で、ウルトラマラソンは意外と「経験」がものを言う。

 本書は、そのような「ウルトラマラソンを完走するために必要な『経験知』」を凝縮した本、という印象。本書も「100km走破に耐えられるだけの脚をどうやって作るか」という「トレーニング」の話から始まるのだが、それは全5章のうちのたったの1章に過ぎない。「トレーニング」と同等かそれ以上に重要な(完走に不可欠な)事柄がたくさんあるのだ。

 第1章に掲載されている「トレーニングメニュー例」は、大会開催日の14週間(≒100日)前からトレーニングを始める計画になっている。トレーニング開始の時点でフルマラソンを完走できる走力があることを前提に、そのフルマラソンの完走タイムから100kmマラソンの完走タイムを推定し、トレーニングでの走行ペース等を決めている。

 1週間のトレーニングメニュー例を見ると、日曜日のロング走と水曜日のビルドアップ走がメイン、その他の日は「つなぎジョグ」。目標とするレベルに応じて休息日を加減する。もっとも、「ギリギリ完走狙い」でも週4回走ることにはなる。

 日曜日のロング走が面白い。ウルトラマラソンのためのトレーニングでは「長時間(最長6~7時間)身体を動かし続けること」が最も重要で、必ずしも「走る」必要はなく「歩く」ことでもトレーニング効果を見込めるものらしい(ただし、一日中歩き回る!)。とにかく長い時間動き続けることに身体を慣らしていくことが決定的に重要らしいのだ。

 ちょっと驚いたのは、「レース中の補給食はスタート後1時間か10kmごとに、おにぎりであれば最低1個というペースが理想。」とあったこと。そんなに食べるの!? 僕もかなり喰いまくる方だが、サスガにそんなに食べてはいない…(と思う)。

 本書の内容で1つだけ注意が必要だと感じたのは、「シューズ選び」について。本書が刊行されたのは2012年で、現在市場を席巻しているようなタイプの「厚底ランニングシューズ」はまだこの世に存在していなかった(先駆けとなったNikeのVaporFlyが発売されたのは2017年)。このような「厚底」系のシューズがウルトラマラソンに適しているか、またそういったシューズを履くならどのようなランニングフォームで走るべきか、については(当然ながら)一切触れられていない。今なら著者もこのテの厚底シューズに関して何か一言述べるのではないか。

 僕自身は100kmマラソンに過去9回挑戦して、9回とも完走している。ただ、僕自身は(自己ベストの更新よりも)「絶対にリタイアしないこと」を重視しており、走り方も自己流、普段はジョギングしてるだけ。このテの本を読んだことはなかった。本書を読んで少し驚いたのは、おそらくこの本自体は「アスリート」志向の読者を想定して書かれているだろうに、これまで僕自身が感じていたことに通ずることがあちこちに書かれていたこと。自分は「制限時間ギリギリの完走狙い」で走っているので、「アスリート」「競技者」系の人たちとは、考えたり感じていることが全然違うのだろうと勝手に思っていた(だからこそ、「どうせ参考にならない」とこのテの本に手を伸ばすことすらなかった)。それがどうして、思い当たるフシが多々あるのだ。読んでみて良かったと思う。

 ちなみに本書は、(一般の「出版社」ではなく)マラソン大会の開催・運営やランニング・マラソン関連情報の発信を行っている「アールビーズ」から刊行されている。そのため、本書が(オンライン書店を含む)一般の書店で取り扱われている(いた)のかどうかよくわからない(笑)。僕自身はアマゾンのマーケットプレースに出品されていた古本を古本屋から購入した。

 本文155ページ程度。